第35回 日本神経科学大会 ランチョンセミナー1(LS1)

大会名
第35回 日本神経科学大会
開催地
名古屋国際会議場
日時
2012年9月18日(火)12:00~13:00 (終了しました)
会場
B会場(レセプションホール)
言語
日本語

座長
大隅 典子(東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野 教授)
セミナー
脳の発生と進化の原理と多様性 -Brain development and evolution: its framework and diversity-

演者
大隅 典子(東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野 教授)[大隅研究室]
演目
哺乳類脳を構築する神経幹/前駆細胞の増殖と分化のメカニズム
-Mechanisms for proliferation and differentiation of mammalian neural stem/progenitor cells-
演者
岡野 栄之(慶應大学医学部 生理学教室 教授)[岡野研]
演目
マーモセットにおける大脳皮質形成 -Corticogenesis in Common Marmoset-

脳の発生と進化の原理と多様性

Brain development and evolution: its framework and diversity

我々の高次神経機能を支える脳がどのようにして構築されるのかについては、19世紀の解剖学者、Wilhelm HisやSantiago Ramon y Cajalも大きな関心を抱いていた。Hisは1904年に『ヒトの脳の発生』というモノグラムを著している。ほぼ同時代のCajalは、脳の組織学的構築に関するニューロン説を提唱して1906年にノーベル生理学医学賞を受賞したが、ニワトリやラットの胚を観察して、多数の論文や著書を残し、彼の「予言」は後世に大きな影響を与えた(後述)。

神経発生学は、身体の他の部分の発生学と同様に、記載の学問として始まったが、20世紀になって実験発生学の洗礼を受けた。Hans Spemannはその愛弟子のHilde Mangoldとともに、イモリ胚を用いた移植実験を行い、神経系を含む二次軸を誘導しうる「オーガナイザー」という領域を明らかにしたことによって1935年の生理学医学賞に輝いた。この流れを次いだ研究者らが、「神経誘導」に必須の分子を相次いで明らかにしたのは、分子生物学が導入された1990年代であったが、それ以前に、第二次世界大戦中にユダヤ人として迫害を受けつつも自宅の実験室でニワトリ胚を用いて研究を続けたRita Levi-Montalciniにより、神経突起の成長に必須の因子の1つとして神経成長因子NGFが同定され、彼女は女性として神経科学分野では初めて、1986年にノーベル生理学医学賞を受賞した。

神経発生研究に影響を与えた別の流れは、Thomas Morganによる分子遺伝学に端を発する。発生を理解するためのモデル動物としてショウジョウバエが取り入れられることにより、発生の分子メカニズムの理解が画期的に進み、さらに、「ショウジョウバエで大事な遺伝子は(ほぼ)マウスでもヒトでも重要である」という真理により、1995 年の生理学医学賞は「初期胚発生の遺伝的制御に関する発見」に対して与えられた。このことは、ショウジョウバエの相同遺伝子を主としてマウスにおいてクローニングし、遺伝子改変マウスを作製することにより、種々の脊椎動物遺伝子同定やその機能の証明を加速することとなり、1990年代後半には、初期神経系原基の領域構築や、神経細胞分化に関する分子メカニズム続々と明らかになっていった。また同じ頃、Cajalの「予言」をもとに探索された分子としては、神経回路構築に決定的に重要な軸索誘導因子の仲間が挙げられる。

また、胎生期における神経細胞の産生(神経新生neurogenesis)が生後も引き続いて生じることは、1960年代にAltmanらによってラットにおいて見出されていたが、この事実がいわば、よりダイナミックなレベルでの神経可塑性に関わることにより「再発見」されたのは、神経新生と鳴禽の歌学習との関連が理解された1980年代半ばであり、紆余曲折の末、サルやヒトにおいても証明されたのは1990年代後半になってからであった。現在では、海馬歯状回や側脳室壁等、成体脳の一部では、神経新生が生涯にわたって続くことや、記憶・学習・情動等に対する生理的意義や、うつ病、統合失調症、アルツハイマー病等、種々の精神疾患病態への関連が明らかにされつつある。

さらに、この数年の間の画期的な進歩は、種々の情報科学的なbig dataを扱うアプローチも取り込むことにより、多様な哺乳類脳の構築原理や、ヒトを含む霊長類の大脳新皮質構築についての理解が飛躍的に進んだことである。つまり、これまでは種を越えた「基本原理」としてのフレームワークの理解が中心であったが、現在では、「どのようにしてヒトの脳がヒトらしくなったのか、そのことが、高次脳機能にどのように関係するか」を理解することが可能になったといえる。例えば、言語機能に異常のある家系から発見されたFOXP2という遺伝子が、いかにヒトの言語機能に関わるのかについて、現在、発生学的研究、神経生物学的研究、進化的研究が精力的に展開されている。さらに加えて、自閉症や統合失調症の病態・発症メカニズムに関しても、シナプス形成や神経新生など、脳構築の「軽微な異常」がこれらの精神疾患の原因となっているという理解が世界的にコンセンサスとなりつつある(neurodevelopmental theory)。

株式会社成茂科学器械研究所のご支援による本ランチョンセミナーは本年、ちょうど10年目の節目を迎える。本セミナーでは、まず、上記のような神経発生の歴史と現状についてオーガナイザーである大隅がoverviewし、続いて、この分野で(も)最先端の研究を展開されている岡野栄之博士に、とくに霊長類を含む哺乳類の脳構築メカニズムに関する独自の研究成果についてご披露頂く。本セミナーが広く神経科学学会に関係する皆様の知識をupdateするとともに、知的好奇心を刺激し、それぞれの研究がさらに発展することを期待する。

座長:大隅 典子(東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野 教授)


※ランチョンセミナーは整理券制となります。開始10分後に整理券は無効となります。

※整理券は開催当日(9/18)7:30~11:50に、ランチョンセミナー整理券デスク(1号館2F)にて配布致します。(整理券がなくなり次第配布終了致します。)

※その他詳細につきましては、随時更新してまいります。

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大盛況の内に幕を閉じることができました。

大隅 典子 教授 岡野 栄之 教授

第35回 日本神経科学大会 ランチョンセミナー

たくさんのご来場ありがとうございました。

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